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大阪地方裁判所 昭和32年(行)86号 判決 1963年5月21日

大阪市阿倍野区松崎町一丁目三二番地

原告

有限会社 丹頂

右代表者清算人

広川良策

右訴訟代理人弁護士

先川吉蔵

同市東区大手前之町一丁目一番地

被告

大阪国税局長

塩崎潤

右指定代理人検事

山田二郎

大蔵事務官 辻本勇

右当事者間の審査決定取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告の求める裁判

1  原告の自昭和二七年九月一日至同二八年一月三一日事業年度の法人税更正決定に対する審査請求につき、被告が昭和三二年七月二〇日なした審査請求棄却決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告の求める裁判

主文同旨の判決

第二当事者双方の主張とこれに対する答弁

一  原告の請求原因

原告は料理旅館業を営む有限会社であるが、昭和二五年九月一日設立登記と同時に原告の本社の所轄税務署長である訴外奈良税務署長(以下単に訴外税務署長という)に対し法人税法(以下に掲げる法規はいずれも行為時法による)二五条による青色申告書提出の承認申請をし、昭和二五年九月一日から同二六年八月三一日までの第一期事業年度分、昭和二六年九月一日から同二七年八月三一日までの第二期事業年度分(以下単に第一期事業年度或は第二期事業年度という。)とも青色申告をし、右訴外税務署長はこれを受理したので、原告は、法人税課税の取扱いにおいて、事業開始以来青色申告法人たることを承認させていた。

ところが原告は昭和二八年一月三一日解散することになり、昭和二七年九月一日から同二八年一月三一日までの、第三期事業年度分(以下単に本件事業年度分という)において、六、一七四、〇〇〇円の欠損が生じたので、昭和二八年三月三〇日訴外税務署長に対し、損失金六、一七四、〇〇〇円、留保所得金額九七八、一四〇円、法人税額三八、四九〇円なる旨の確定申告をするとともに、法人税法二六条の四により欠損金の繰戻による法人税額の還付請求をしたところ、右訴外税務署長は昭和三一年三月二七日、原告の本件事業年度の所得金を二九、一〇〇円、留保所得金一、〇八〇、八〇〇円と認定し、法人税額六六、二六〇円、納付の確定した当期の基本税額三八、四九〇円、差引法人税額二七、七七〇円とする旨の更正決定をした。そこで、原告は昭和三一年四月二三日訴外税務署長に対し再調査の請求をしたところ、該再調査請求は法人税法三五条三項二号により被告に対する審査請求とみなされ、昭和三二年七月二〇日被告は右請求を理由ないものとして棄却する旨の決定をし、その通知は翌二一日原告に送達された。

しかして被告の右審査請求棄却決定は次の理由により取り消されるべきである。

原告は前記のとおり事業開始以来青色申告法人たることを承認されており、かつ訴外税務署長より右承認を取り消されたことはないから、原告に対し法人税法三一条の四、二項所定の推計による認定課税をなしえないにもかかわらず、訴外税務署長は原告の提出した帳簿等の証拠書類を無視し、原告に対し推定による認定課税をした、又、青色申告法人に対する更正決定には、同決定の通知書にその理由を附記しなければならないのに、その理由を附記しなかつた。以上のとおり訴外税務署長がなした右更正決定は法人税法三一条の四、三二条に違反する違法なものであるにもかかわらず、これを適法なものとして認容し、原告の審査請求を棄却した被告の審査決定は違法であるから取り消されるべきである。

二、原告の請求原因に対する被告の答弁並に主張

1  原告が料理旅館業を営む有限会社であること、原告がその主張の日時解散し、原告主張の日時主張の本件事業年度の確定申告をなすとともに、法人税法二六条の四により欠損金の繰戻による法人税額の還付請求をなしたところ、訴外税務署長が原告主張の日時にその主張の如き更正決定をしたこと、右更正決定の通知書には法人税法三二条所定の理由附記がなされていなかつたこと、原告が主張の日時訴外税務署長に対し再調査請求をなしたところ審査請求とみなされ、該審査請求につき被告が昭和三二年七月二〇日棄却決定をし、その通知が翌二一日原告に送達されたことは認めるもその余の事実は全部否認する。

2  原告は青色申告法人ではない、青色申告法人たる承認を得るためにはまず法人税法二五条三項により当該法人の事業年度開始の日の前日まで(当該事業年度が法人設立後最初の事業年度である場合は、当該事業年度開始の日から二箇月以内)に、青色申告承認申請書を所轄税務署に提出しなければならないのに原告はこの手続をしなかつた。原告は、原告が事業開始以来青色申告法人たることを承認されていた旨主張しその理由として縷々主張するが、青色申告法人となるためには右青色申告承認申請書を提出しなければならないのであるから、この申請書の提出がない以上どのような事情があつたにせよ青色申告法人となることはできないのである。又、次に述べるような諸事情から見ても原告がその主張の如き青色申告法人でなかつたことは明らかである。

(一) 原告は事業開始当初から解散に至るまで、青色申告法人に対し要求されているような諸帳簿を備付けていなかつた。原告はもと個人営業の料理旅館業であつたものを、昭和二五年法人組織にしたのであるが、個人営業時代から法人組織後並びに解散後再び個人営業に還るまでを通じて、店舗の増減はあつたが、その営業状況及び経理状況には変化がなかつた。即ち、営業利益は相当の額を挙げていたのであるが、解散前の原告代表取締役訴外楠本助一(以下単に訴外楠本助一という。)は、その生活が放漫で(現在行方不明で解散後の営業は同人の妻山口が行つている。)法人と個人の区別がなく、従つて法人の経理はその記載の順序、整理が乱雑で記帳の脱漏が相当あり、決算に当つては到底真実の営業状態を表現することができなかつたので、その結果帳簿のつじつまを合す為に訴外楠本助一に対する仮払金払金或は貸付金を設けざるを得ず、しかもその金額は膨大なものとなつたのである。しかしながら原告は料理旅館営業の成績が良好であつたので、第一期事業年度分の利益二四九万余円、第二期事業年度分の利益二〇一万余円と申告したのである。けれどこのように正確でなくしかも整然としていない帳簿をもつてしては自然正確な結果が得られるはずがないので、原告は自己の営業状況からみて妥当な利益を表現できるような決算を種々な操作を弄して作つていたのである。このような経理状態の法人を青色申告法人として承認することは考えられないことである。

(二) 原告は事業開始以来税務事務を訴外税理士杉本総太郎の主宰する杉本会計事務所に委嘱しているにもかかわらず、青色申告法人であれば当然なし得る退職給与引当金、資倒準備金、価格変動準備金等の経理をしておらず、又固定資産があるのに減価価却をせず、その為生ずる減価償却不足額の翌期への繰越計算書も添付していない、これ等のことは、税法に暗い者であれば漏らすことがあつても、税法に堪能な税理士が行う青色申告法人の経理としては絶対に漏らすことのない事項である、このように青色申告法人の恩典である諸勘定を計上していなかつたことから見ても原告が青色申告法人でなかつたことは明らかである。

以上の次第で原告は青色申告法人でないから法人税法三一条の四、二項により推計課税を行つたことは何等違法でなく、又更正決定通知書に更正の理由を附記する必要もないのであるからこの点に関する原告の主張は失当である。

3  本件更正決定の根拠

(一) 前記のとおり原告は青色申告法人に対し要求されているような諸帳簿を備付けておらず、その帳簿は乱雑で脱漏が多くこれを基礎にしてはとうてい正確な利益を計算することができないので、被告は必要な計算書の提出を原告に求めたが応じないため、可能な範囲で出来る限りの調査をした結果次のような訴外税務署長の所得の認定、法人税額の決定を正当なものとして認容した。

(二) 本件事業年度の所得金並びに税額

(イ) 所得金

(1) 売上金 八、六四四、七六二円

(A) 原告が計上した金額 七、六四四、七六二円

(B) 原告の計上漏売上金 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告の帳簿は真実の営業状態を示していないが、第一、二期事業年度の決算利益は原告の営業状況及び規模からみて、概ね真実の利益を表わしていると思われるからその決算書の金額を基礎にして本件事業年度の売上高を推計すると、第一期事業年度の売上金は一〇、七七〇、二〇四円、第二期事業年度の売上金は一七、六八六、一九七円であるのに原告の決算書によれば本件事業年度の売上金は七、六四四、七六二円であつて前期の売上金の半額八、八四三、〇九八円五〇銭との差は一、一九八、三三六円五〇銭となる。料理旅館業においては、年末年始を含む半年とその他の月とではその売上収入において格段の差があるから、本件事業年度は自昭和二七年九月一日至同二八年一月三〇日の五ヵ月間ではあるが、その、売上高は年間の売上高の半額を超える金額にならなければならないのである、しかるに原告の申告にかかる本件事業年度の売上高がかように少ないのは、原告の帳簿が真実の営業状態を日々漏れなく記録しているものでなく、訴外楠本助一が会社経営のみならず個人的生活においても放漫を極めたことが原因しているのである。よつて訴外税務署長は売上金の脱漏を一、〇〇〇、〇〇〇円として、所得推計の基礎金額としたのである。

(2) 営業利益金 七七四、〇〇〇円

原告の過去現在を通じての営業状況、経理状況に、原告の本件事業年度の所得について調査を担当した大場潤二事務官が、奈良税務署管内の料理旅館業を調査した結果を総合すると原告の営業利益率は九%と認められるので、前記売上金額中八、六〇〇、〇〇〇円に九%を乗じた金額が原告の営業利益金となる。

(3) 営業利益金から控除した金額、七四四、八〇七円

原告の計上した支払利子七〇三、五九七円、退職手当金九〇〇、〇〇〇円の合計一、六〇三、五九七円から訴外楠本助一に対する貸付金の利息認定額八五八、七九〇円(年一割の割合による利息金の五ヵ月分)を控除した金額。

(4) 差引純利益(本件事業年度分の所得金)二九、一九三円

前記(2)営業利益額七七四、〇〇〇円から(3)の控除額七四四、八〇七円を差引いた金額。

(ロ) 右所得金に対する税額 一二、二二二円

課税標準額二九、一〇〇円〔国等の債権債務の金額の端数計算に関する法律(以下単に端数計算法という。)五条により前記所得金額二九、一九三円の内九三円は切り捨て〕に法人税法一七条一項一号所定の百分の四二の税率を適用した金額。

(三) 留保所得金並びに税額

(イ) 留保所得金

(1) 原告の本件事業年度期首現在の積立金三、〇九三、九五三円

原告の計上した法定積立金五五〇、〇〇〇円、別途積立金五五〇、〇〇〇円、繰越利益金一、五二九、六〇八円、前期更正決定により確定した架空借入金三六二、〇〇〇円、同減価償却超過額二六二、一七一円、同未収利子四一九、八二四円をそれぞれ加算した合計三、六七三、六〇三円から利子税引当三二、四五〇円(未納法人税に対する利子税を引当したもの)並びに税金引当不足額五四七、二〇〇円(期首現在未納法人税及び府市民税一、六三三、四五〇円から期首現在税金引当金一、〇八六、二五〇円を差引いた金額)を各差引いた金額である、(法人税法一六条)。

(2) 本件事業年度分の積立金一、二八九、一四七円

(1)の積立金を本件事業年度の月数五ヵ月により月割計算した金額(法人税法一三条)

(3) 課税の対象となる積立金(留保所得金)一、〇八〇、八一四円

原告は法人税法一七条一項三号の同族会社であるから、原告の本件事業年度開始の日における資本金二、〇〇〇、〇〇〇円の百分の二五に相当する金額五〇〇、〇〇〇円を本件事業年度の月数により月割計算すると二〇八、三三三円となるので、前記(2)の当期積立金一、二八九、一四七円から右二〇八、三三三円を差引いた金額が課税留保所得金となる。(租税特別措置法五条の一二)。

(ロ) 右留保所得金に対する税額五四、〇四〇円

留保所得金一、〇八〇、八〇〇円(端数計算法五条により(3)の課税留保所得金一、〇八〇、八一四円の内一四円は切り捨て)に租税特別措置法五条の一二所定の百分の五の税率を適用した金額。

(四) 前記(二)の(ロ)の本件事業年度の所得金に対する税額一二、二二二円に前記の(三)の(ロ)の留保所得金に対する税額五四、〇四〇円を加算した金額六六、二六二円が本件事業年度の法人税額であるが、右六六、二六二円のうち二円は端数計算法六条により切り捨てとなるので、原告の法人税額は六六、二六〇円となるのであるが原告は本件事業年度の確定申告において三八、四九〇円(納付の確定した当期分の基本税額)を納付済みであるから、本件更正により追徴される税額(差引法人税額)は二七、七七〇円となる。

(五) 以上の次第であるから右訴外税務署長が昭和三一年三月二七日原告に対しなした本件更正決定は適法であり、これを認容して原告の審査請求を棄却した被告の決定は適法であるから原告の本訴請求は棄却されるべきである。

三  被告の主張に対する原告の答弁並びに反駁

1  原告が事業開始以来税務事務を訴外税理士杉本総太郎の主宰する杉本会計事務所に委嘱していたこと、退職給与引当金、貸倒準備金、価格変動準備金及び減価償却等の経理をしていなかつたことは認めるも、原告が事業開始当初から青色申告法人に対して要求されている諸帳簿を備えつけていなかつたとの主帳は否認する。原告は昭和二八年三月三〇日青色申告法人として青色申告用紙により本件事業年度の確定申告並びに法人税額の還付請求をしたが、そのさい訴外税務署の大場潤二事務官の要請により、原告の本件事業年度分の総勘定元帳を始め、その裏付の伝票、請求書、領収証、金銭出納帳及び銀行予金帳等を提出し、特に不信に思われやすい買掛金の多額計上の理由(現金主義会計であつた為、不測の解散によつて滞つていた未払金の計上を余儀なくされたこと、)を説明したが、これについても右事務官は何等異議を述べられず、まして帳簿が整備されていないなどといわれたことはなかつた。又、原告が被告主張の各種準備金及び減価償却等の経理をしていなかつたのはその必要がなかつたのでしなかつたまでで、青色申告法人でないからかかる経理をしなかつたものではない。現に青色申告法人であつて原告と同業種の有限会社花作及び有限会社与市でも事業開始当初から貸倒準備金の経理をしていないのである。

2  原告が青色申告法人であることは次の事実からも明らかである。

(一) 原告の設立以来その税理事務の委嘱を受けている訴外杉本会計事務所は、原告が設立された昭和二五年九月当時原告の他に三二の法人から税務事務を委嘱されていたが、その全部の法人について青色申告書提出の承認申請をし、それ等の法人は昭和三一年に右承認を取消された枚方税務署所管の安田メリヤス有限会社を除いては現在に至るまで引続いて青色申告法人として取り扱われているのであるから、独り原告のみ青色申告書提出の承認申請をしていなかつたということは考えられない。

(二) 原告の事業開始当初より本件審査決定に至るまで訴外税務署長は終始原告を青色申告法人として取り扱かつて来た。前記のとおり原告は第一、二期事業年度分についてはそれぞれ青色申告による確定申告をしたが、訴外税務署長は異議なくこれを受理し、第二期事業年度分の確定申告に対しては更正決定をした。原告が昭和三一年四月二三日本件更正決定に対し再調査請求をしたところ(本件更正決定通知書に更正決定の理由が附記していない違法があるので、右決定の無効の確認或は取消を求めるためのものであつた。)、訴外税務署長は同月三〇日原告に対し「法人税の更正決定の理由」を通知し、前記更正決定の理由附記をしていない違法を補正しようとした。そこで原告が再度前記再調査請求は本件更正決定の無効或は取消を求める趣旨である旨通知したところ、右訴外税務署長は同年六月一六日「更正理由記載洩れが直ちに当該更正決定の無効或は取消原因となるものではない、」旨回答して来たが、その間原告が青色申告法人でないから更正決定通知書に理由附記はいらないとは主張しなかつた。そして原告会社代表者清算人訴外広川良策が同月一日訴外税務署に出頭した際、訴外税務署の直税課長及び法人税課長は同訴外人に対し、「事務補助者の不注意で更正決定通知書に理由を附記しなかつたのは申訳けない、この件については数字の上で話し合いたい、」旨述べていた。ところが原告の再調査請求がみなし審査請求となり、大阪国税局協議団の調査を受けることとなつて、同協議団から訴外税務署長に対し、「原告の第二期事業年度分に対しては青色申告法人と判定していいるにもかかわらず、本件事業年度分に対しては、白色法人と判定している、」理由を照会されると、にわかに従来の態度をかえて、「原告の青色申告書が青色申告書綴中に発見出来ない、旧調査簿並びに原簿の青色申告状況欄及び一般事務整理簿の青色申告欄に提出事実の記載がない、」ことを理由に原告は青色申告法人でなく、第二期事業年度分について原告を青色申告法人として処理したのは何かの間違いであると主張するようになつた。

(三) 昭和三一年六月二七日訴外税務署の大場潤二事務官から右訴外広川良策宛電話があり、「会計検査院の監査があるので本件事業年度の決算報告書の控と、もしあれば青色申告承認申請書の控を本日午后五時迄に至急届けてほしい、」旨依頼があつたので、取りあえず右決算報告書の控を右訴外事務官に届けた、ところが翌七月訴外税務署職員の転勤があり、八月になつて右決算報告書の返還を申出たところ、新任の法人税係長稲塚庄次は、右訴外広川良策に対し、「この決算書を返したら税務署に一通も決算書がなくなるから決算書の写を作つて提出してほしい、」旨依頼するので、新に写を作成して右訴外係長に届けた。以上の事実から見ると、昭和三一年三月二七日の本件更正決定前に訴外税務署長は原告が先に提出してあつた本件事業年度分の決算報告書を紛失していたものと推察される。以上の事実に、原告の度重なる要請にもかかわらず本件事業年度の確定申告について一度の調査もせず、二年一一ヵ月余の間放置し、更正決定の期限の制限にかかる四日前に始めて更正決定をしたこと、出鱈目な推計による認定課税であること、更正決定通知書に理由の附記がないこと等を総合すると、訴外税務署長は原告の確定申告について一度も調査しなかつたため更正決定通知書に理由を附記しなかつたところ、原告からその違法を突かれたので、原告が七年前に提出した青色申告承認申請書の控を所持していないことを確かめた上で、自己の過誤を弥縫するためにわかに原告は白色法人であると主張するにいたつたものと思われる。しかし法人税取扱に関して最も重要な書類である決算報告書を紛失するような放漫杜撰な書類整備をしていながら、たまたま原告提出の青色申告承認申請書が見当らず、法人原簿及び仮受事件整理簿に青色申告承認の記載がないという一事をもつて、原告が青色申告承認申請書を提出していないと主張することは失当である。被告は前記訴外税務署長の間違つた回答を鵜呑して、原告を白色法人と断定し、本件審査請求を棄却したのであるから、該決定は明らかに違法であり取消されるべきである。

3  原告は青色申告法人であるから推計による認定課税をすることは違法であるが、仮に原告が青色申告法人とは認められず、推計による認定課税が許されるとするならば、被告主張の所得推計の根拠並びに計算関係は全部認める。

第三当事者双方の証拠の提出、援用及び認否

一  原告の証拠の提出、援用及び認否

1  甲第一ないし第七号証、第八号証の一、二、第九、一〇号証、第一一、一二号証の各一、二、第一三ないし三六号証、第三七号証の一ないし三、第三八ないし四一号証の各一、二、第四二号証の一ないし三、第四三ないし四六号証の各一、二、第四七号証の一ないし三、第四八ないし五四号証の各一、二を提出。

2  証人杉本総太郎(第一、二回)稲塚庄次、松本礼子、池嶋豊二、の各証言並びに原告代表者本人尋問(第一ないし三回)の結果を各援用。

3  乙第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告の証拠の提出、援用及び認否

1  乙第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証、第四ないし六号証の各一、二を提出。

2  証人大場潤二、立石義雄の各証言を援用

3  甲第一ないし七号証、第八号証の一、二、第九、一〇号証、第一一、一二号証の各一、二、第一三ないし第三六号証、第五三、五四号証の各一、二の成立は認めるもその余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  原告が料理旅館業を営む有限会社であること、原告が昭和二八年一月三一日解散するに至つたので、昭和二八年三月三〇日訴外税務署長に対し、損失金六、一七四、〇〇〇円、留保所得金九七八、一四〇円、法人税額三八、四九〇円なる旨の確定申告をするとともに、法人税法二六条の四により欠損金の繰戻による法人税額の還付請求をしたところ、右訴外税務署長は昭和三一年三月二七日同法三一条の四、二項により原告の所得を推計し、本件事業年度の所得金を二九、一〇〇円、留保所得金一、〇八〇、八〇〇円と認定し、法人税額六六、二六〇円、納付の確定した当期の基本税額三八、四九〇円、差引法人税額二七、七七〇円とする旨の更正決定をしたこと、右更正決定の通知書には法人税法三二条所定の理由附記がなされていなかつたこと、原告が主張の日時訴外税務署長に対し右更正決定に対し再調査請求をなしたところ法人税法三五条三項二号による審査請求とみなされ、被告が昭和三二年七月二〇日右審査請求を理由がないものとして棄却決定し、その通知が翌二一日原告に送達されたことは当事者間に争がない。

二1  原告は、青色申告法人である原告に対し法人税法三一条の四、二項による推計課税をなし、かつ更正決定通知書にその理由を附記していない訴外税務署長の本件更正決定は違法である旨主張するので、まず原告がその主張のような青色申告法人であつたかどうかについて検討する。

2  青色申告法人となる(青色申告書を提出することが承認されていること)ためには法人税法二五条三項により当該法人の事業年度開始の日の前日まで、(当該事業年度が法人設立後最初の事業年度である場合には、当該事業年度開始の日から二箇月以内、)に青色申告承認申請書を所轄税務署長に提出することが不可欠の要件となつているところ、原告は、昭和二五年九月一日設立登記と同時に、原告の本社の所轄税務署長である訴外税務署長に対し右青色申告承認申請書を提出した旨主張し、証人杉本総太郎(第一回)、池嶋豊二、及び原告代表者本人(第一、二回)はいずれも、「昭和二五年九月一日訴外杉本会計事務所の事務員池嶋豊二が原告会社の設立届及びその添付書類とともに所定の用紙に記載した原告の青色申告承認申請書を訴外税務署に提出した、」旨供述しているが、右証言並びに原告代表者本人尋問の結果は後記認定に照してにわかに信用出来ない。

3  もつとも成立に争のない甲第二ないし五号証、第八号証の一、二号証、第九、一〇号証、第一一号証の一、第一五ないし三六号証、乙第四号証の一、原告代表者本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第三七号証の一ないし三、第三八ないし四一号証の各一、二、第四二号証の一ないし三、第四三ないし四六号証の各一、二、四七号証の一ないし三、四八号証の一、二、第四九ないし五一号証の各一、二並びに証人杉本総太郎(第一、二回)池嶋豊二、大場潤二、稲塚庄次、立石義雄の各証言及び原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると、原告の事業開始当初からその税務事務を委嘱されていた訴外杉本会計事務所は原告が設立された昭和二五年九月一日当時原告の他三二法人から同じように税務事務を委嘱されていたが、その殆んどの法人について当時既に青色申告書提出の承認申請手続をしていたこと、原告が第二期事業年度分の確定申告について青色申告用紙を使用して申告したのに、訴外税務署長はこれを受理し、計上漏利息等を認定して右確定申告につき更正決定をしたこと、原告が訴外税務署長に対し昭和三一年四月二三日本件更正決定の通知書に更正理由の附記がないことを理由にその取消を求めて再調査請求したところ、訴外税務署長は原告に対し、「法人税の更正決定の理由について」と題する書面で、右更正決定の理由を「所得金額を仕入金額と差益率、原材料消費量と歩留率等から総体的に計算した、」旨通知して来たこと、そこで原告が再度前記再調査請求は本件更正決定の無効或は取消を求める趣旨である旨通知したところ、右訴外税務署長から同年六月一六日、「更正理由記載洩れが直ちに当該更正決定の無効或は取消原因となるものではない、」旨回答して来たが、その間原告が青色申告法人でないから更正決定通知書に理由附記はいらない旨回答して来たことはなかつたこと、原告会社代表者訴外広川良策が同年六月一日訴外税務署長の出頭依頼により訴外税務署に出頭し、法人税課係員訴外大場潤二事務官と面談したさいも、原告が白色法人であるとの話は出なかつたこと、原告の前記再調査請求が審査請求とみなされ、大阪国税局協議団本部第一審査部から訴外税務署長に対し、「原告の第二期事業年度分に対しては青色申告法人と判定しているにもかゝわらず、本件事業年度分に対しては、白色法人として判定している、」理由を照会され、始めて「原告の青色申告承認申請書が青色申告書綴中に発見出来ず、旧調査簿並びに原簿の青色申告状況欄及び一般事務整理簿の青色申告書欄に提出事実の記載がない。従つて第二期分のみ青色申告の処理をしているのは、何かの間違いと思料せられ、原告を青色申告とした根拠は発見出来ない、」旨回答するに至つたこと、が認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして証人大場潤二の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証並びに証人大場潤二の証言によれば、訴外税務署に提出された書類は全て総務課に集められ、同課で受付印を押され、受付原簿に登載され、更に各所管別に分類された上法人税の申告に関する書類は法人税係に廻わされること、訴外税務署は昭和二五年当時申告書の提出者に対し受領を証する方法を構じておらず、又青色申告承認の通知も出していなかつたことが認められるから、原告が青色申告法人であるか否かは、原告が所定期間内に青色申告承認申請書を提出し、かつ同承認が取消されていないかを法人原簿、法人税収受事件整理簿にあたつて調査する他はなく、その調査をすれば後記認定のとおり原告が青色申告承認申請書を提出していないことは容易に判明するにもかゝわらず、前記認定のとおり、原告の再調査請求に関する原告、訴外税務署間の数回にわたる文書の交換、折衝の間にも、訴外税務署長が原告に対し、青色申告承認申請書を提出していない事実を指摘し、その再調査請求が認められない理由を説明した事跡が認められないこと、青色申告用紙によりなされている第二期事業年度分の確定申告が何等問題もなく訴外税務署長に受理されていることなどを考えあわせると、前記認定にかゝる訴外税務署長の処置にはいささか遺憾な点がないではないが、前掲各証拠に証人立石義雄の証言を総合すると、昭和二六年当時はシヤウプ勧告により青色申告制度が樹立されてまだ日が浅く(昭和二五年法第七二号改正)、各税務署に対する青色申告用紙の使用方法などについての指示が十分徹底していなかつたため、青色申告書提出の承認申請をしていない申告者が、青色申告用紙で申告して来た場合でもそのまゝ受理していた事実があつたこと、又昭和三一年四月三〇日付で訴外税務署長が原告に対し更正決定の理由を通知したのは、原告において課税標準額についての異議があれば、先に出された再調査請求により争えるよう特に配慮したためであつたこと、前記認定のとおり原告の第二期事業年度分の確定申告は青色申告用紙でなされているが、同申告には後記認定のとおり当時既に施行されていた青色申告法人のみに認められる退職給与引当金、貸倒準備金及び価格変動準備金勘定等の経理がなされておらないので(この点については当事者間に争がない、)この年度に原告が法人税課税の取扱いにおいて青色申告法人として処理されたとは認められないことなどを総合すると、前記認定の諸事実からただちに原告が訴外税務署長に対し青色申告承認書を提出していた事実を推認することは出来ない。尚原告は、訴外税務署長が本件更正決定前に原告が先に提出してあつた本件事業年度の決算報告書を紛失していたこと、原告の確定申告について一度も調査せず、更正決定の期間の制限にかゝる四日前に始めて更正決定したこと、出鱈目な推計による認定課税であること、更正決定通知書に理由の附記のないこと等の事実から推して、訴外税務署長が原告を白色法人と主張するのは自己の過誤を弥縫するためである旨主張するところ、本件更正決定が期限の制限にかかる四日前である昭和三一年三月二七日になされたことは当事者間に争がなく、又成立に争のない甲第六号証原告代表者本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第五二号証の一、二、証人稲塚庄次、杉本総太郎(第二回)松本礼子の各証言並びに右被告代表者本人尋問の結果によれば、昭和三一年八月頃原告が、本件事業年度分の決算報告書の写を再度訴外税務署に提出したことは認められるが、後記認定のとおり原告は青色申告法人とは認められないから、右の事実からただちに原告主張のような事実は推認出来ない。又原告主張のように訴外税務署の直税課長及び法人税課長が原告代表者訴外広川良策に対し、「事務補助者の不注意で更正決定通知書に理由を附記しなかつたことは申訳けない、」旨述べたこの事実は、これにそう証人杉本総太郎(第一、二回)の証言並びに原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)は措信できず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

4  かえつて次の事実を総合すると原告は青色申告承認申請書を提出していなかつたものと認められる。

青色申告制度は納税者に法の要求する適正、妥当な記帳計算をなさしめ、もつて申告納税の実をあげることを目的とする制度であるから、青色申告書提出の承認を受けるためには、該法人の帳簿組織の計算及び記帳が適正であり、原始諸証憑が整理されていなければならず、又所得計算も一般に認められる会計原則にもとずいてなされなければならないところ、成立に争のない甲第八号証の一、二、乙第三号証、第四号証の一、二並びに証人杉本総太郎(第一、二回)、大場潤二、立石義雄の各証言及び原告代表者本人尋問の結果(第一ないし第三回)を総合すると、原告はもと個人営業であつたものを昭和二五年九月一日有限会社に組織変えしたもので、奈良県生駒郡生駒町大字菜畑二三一四番地に本社を、同所及び大阪市北浜に営業所を置く、資本金二、〇〇〇、〇〇〇円の有限会社であるが、原告のような料理旅館業においては重要な会計帳簿である仕入元帳、買掛元帳を備えず、かつ仕入勘定、買掛勘定の補助簿を整備していなかつたので、買掛金や仕入関係の未払金を正確に経費に計上することが出来ない状態になつていたところ、訴外楠本助一の放漫な生活がわざわいして昭和二六年末頃から金融難におちいり、諸経費の支払が滞りがちになつて、債務が累積していたのに、北浜店を処分してその支払に当てる予定で右諸経費の内一部を現金で支払い、現金で支払つた額だけを経費に計上していたので、会社解散により多額の未払金五、一七八、八三六円並びに買掛金五、五五四、九七一円を計上することになつたこと、右未払金及び買掛金のうち約四、三〇〇、〇〇〇円は前記決算において未払計上洩れとなつていたこと、そして以上のような多額の未払金を本件事業年度の経費に計上した結果、第一期事業年度には一、八七〇、四〇〇円、第二期事業年度には二、〇一九、六〇〇円の所得金を申告した原告が、本件事業年度に至つて約五ヵ月で六、一七四、〇〇〇円の損失を申告するに至つたことが認められる。

原告は、現金主義会計をとつていたので不測の解散により多額の未払金等の計上を余儀なくされた旨主張するが、原告のように売掛金、買掛金のある料理旅館業が現金主義会計をとることは税務会計上正当でない。所得を構成する収益及びその収益に対応する経費がどの年度に帰属するかを決定するについて、会計理論としては、発生主義と現金主義があり、税法上では権利確定主義と現金収入主義として論ぜられているが、税法上は権利確定主義が原則とされている。そして例外的に現金収入主義による取扱が承認されるのは、売掛金、買掛金勘定のない小規模の単純な取引に限るものと解されている(売掛金、買掛金があれば費用収益の期間的対応が困難になるからである)、以上認定のように売掛金買掛金があるのに現金主義会計をとり、従つて費用収益の期間的対応のなされていない原告の経理は一般会計原則に反し、税法上も容認され得ないものであること、青色申告書提出の承認を受けようとする法人は原則として、法人税施行細則一三条所定の事項を記載した帳簿を備えつけなければならないのに、原告は仕入勘定買掛勘定に関する帳簿を備えていなかつたこと、原告は事業開始以来杉本会計事務所に税務事務を依嘱していたにもかゝわらず、青色申告法人の恩典たる退職給与引当金、(昭和二七年二月二日政令第一二号、即日施行貸倒準備金、(昭和二五年三月三一日政令第七〇号、同年四月一日施行)価格変動準備金(昭和二六年一二月八日法律第三〇三号、即日施行)、等各勘定の経理をしていなかつたこと、前掲乙一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三及び第三号証によれば原告の法人原簿の青色申告欄に青色申告承認申請の記載がなく、又昭和二六年度の法人税収受事件整理簿中原告の中間申告及び確定申告記載欄に青色申告の記載がなく、かつ原告の第一期事業年度分の確定申告書が白色申告用紙でなされていること、(もつとも前記認定のとおり昭和二六年当時は青色申告用紙の使用方法が確立されていなかつたことが認められるが、証人立石義雄の証言によれば、青色申告法人が白色申告用紙で申告する場合は、青色であることを明記する方法をとつていたことが認められるところ、前掲乙第三号証には青色である旨の記載がない。)が認められること。

5  以上のとおり原告が昭和二五年九月一日青色申告承認申請書を訴外税務署長に提出した事実は認められず、その後本件事業年度開始前に原告が青色申告承認申請書を訴外税務署長に提出したとの事実は原告の主張しないところであるから、原告がその主張のように青色申告法人たることを承認されていたとは到底認められない。

三1  原告が青色申告法人でなく、かつ前記認定のとおり原告の帳簿組織によつては正確な収支計算が出来ない以上、法人税法三一条の四第二項により原告の収支の状況事業の規模からその所得を推計して更正決定することは許されなければならない。そして原告が青色申告法人とは認められず、原告に対する推計課税が許さられるとすれば、被告主張の推計計算の根拠並びに計算関係は原告において全部認めるところであり、かつ被告主張の推計による所得の認定は合理的推計による所得認定と認められるので後記のとおりこれを認容することにする。

2(一)  本件事業年度の所得金並に税額

(イ) 所得金

(1) 売上金 八、六四四、七六二円

(A) 原告が計上した金額 七、六四四、七六二円

(B) 原告が計上漏売上金 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告の第一、二期事業年度の売上金より推討した金額

右ABの金額を合計した金額が当期の原告の売上金となる。

(2) 営業利益金 七七四、〇〇〇円

原告の事業開始以来の営業状況並びに奈良税務署管内の料理旅館業の営業利益率を総合して認められる原告の営業利益率九%を前記売上金額中八、六〇〇、〇〇〇円に乗じた金額

(3) 営業利益金から控除した金額七四四、八〇七円

原告の計上した支払利子七〇三、五九七円、退職手当金九〇〇、〇〇〇円の合計一、六〇三、五九七円から当期の訴外楠本助一に対する貸付金の利息認定額八五八、七九〇円(年一割の割合による利息金の五ヵ月分)、を控除した金額

(4) 差引純利益(本件事業年度分の所得金)二九、一九三円

前記(2)の営業利益額七七四、〇〇〇円から(3)の控除額七四四、八〇七円を差引いた金額である。

(ロ) 右所得金に対する税額一二、二二二円

課税標準額二九、一〇〇円(端数計算法五条により一〇〇円未満切り捨て)に法人税法一七条一項一号所定の百分の四二の税率を適用した金額である。

(二)  留保所得金並びに税額

(イ) 留保所得金

(1) 法人税法一六条による原告の本件事業年度期首現在の積立金三、〇九三、九五三円

原告の計上した法定積立金五五〇、〇〇〇円、別途積立金五五〇、〇〇〇円、繰越利益金一、五二九、六〇八円、前期更正決定により確定した架空借入金三六二、〇〇〇円、同減価償却超過額二六二、一七一円、同未収利子四一九、八二四円をそれぞれ加算した合計三、六七三、六〇三円から利子税引当三二、四五〇円(未納法人税に対する利子税を引当したもの、)並びに税金引当不足額五四七、二〇〇円(期首現在未納法人税及び府市民税一、六三三、四五〇円から期首現在税金引当金一、〇八六、二五〇円を差引いた金額)を各差引いた金額である。

(2) 本件事業年度分の積立金一、二八九、一四七円

法人税法一三条により(1)の積立金を本件事業年度の月数五ヵ月により月割計算した金額である。

(3) 課税の対象となる積立金(留保所得金)一、〇八〇、八一四円

原告は法人税法一七条一項三号の同族会社であるから、租税特別措置法五条の一二により、原告の本件事業年度開始の日における資本金二、〇〇〇、〇〇〇円の百分の二五に相当する金額五〇〇、〇〇〇円を本件事業年度の月数により月割計算すると二〇八、三三三円となるので、前記(2)の当期積立金一、二八九、一四七円から右二〇八、三三三円を差引いた金額が本件事業年度分の留保所得金となる。

(ロ) 右留保所得金に対する税額五四、〇四〇円

留保所得金一、〇八〇、八〇〇円(端数計算法により一〇〇円未満は切り捨て、)に租税特別措置法五条の一二所定の百分の五の税率を適用した金額

(三)  前記(一)の(ロ)の本件事業年度の所得金に対する税額一二、二二二円に前記(二)の(ロ)の留保所得金に対する税額五四、〇四〇円を加算した金額六六、二六二円が本件事業年度の法人税額であるが、右六六、二六二円のうち二円は端数計算法六条により切り捨てとなるので原告の法人税額は六六、二六〇円となるのであるが原告は本件事業年度の確定申告において三八、四九〇円を納付済みであるから、本件更正により追徴される税額は二七、七七〇円である。

四  以上認定したとおり原告の本件事業年度の所得金は二九、一〇〇円、留保所得金は一、〇八〇、八〇〇円、法人税額六六、二六〇円、納付の確定した当期の基本税額三八、四九〇円、差引法人税額二七、七七〇円となるから、その旨更正決定した訴外税務署長の本件更正決定は適法であり、従つて右決定を相当と認め原告の審査請求を棄却した被告の決定も適法で、原告の被告に対する本訴請求は失当であるからこれを棄却することにし、訴訟費用の負担について、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江菊之助 裁判官 木村幸男 裁判官 元吉麗子)

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